花と泳ぐ

作者:口八丁ぐりぐら

巻数:3巻(完結)

出版社:芳文社

掲載誌:まんがタイムジャンボ

発売日:2006/7/72009/2/7

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内容

 霊感が強い大学生の幸太は,帰り道で女の幽霊に遭遇します.幽霊の名前は菊子.彼女には生前の記憶がなく,自分が何故幽霊になったのかもわかりません.そこで菊子は自分の姿が見える幸太に協力してもらい,幽霊になった理由を調べてもらうことになったのです.

 菊子は幸太の住むアパートに居着くことになったのですが,そのアパートにもう一人の新たな住人がやってきます.その人物は,霊媒師見習いのふみ(高校生).彼女は悪霊退治のために菊子を追い回しているのですが,菊子には全く効果がありません.それでも菊子を除霊するため,幸太の部屋の隣に引っ越してきました.

 この3人に加え,幸太の親友で超・好青年の梅ちゃんがメインキャラクターです.(梅ちゃんには菊子の姿が見えていません.)この作品の内容は,菊子と出会ったことで一変した幸太の賑やかな日常を描いたものです.しかし,それらは全て幸太の思い出の中の風景なのでした.やがて幸太の身に悲しい出来事が起こり,菊子が消えてしまうことが,物語の序盤から暗示されるのです.

 1巻の中で,読者には早くも菊子の正体が明かされます.しかし,幸太はいつもすんでのところですれ違い,菊子の正体に気づかないのです.ストーリーが進んでいくにつれ,幸太と菊子は今の生活がずっと続いてもいいと思うようになっていきます.一方,秘密裏に動いていたふみは菊子の正体を突き止めるのですが...

 

 ちなみに,作者はネタ担当のぐり先生と作画担当のぐら先生の二人組です.

雑感

 「幸せな気持ちになれる4コマ」 これが私の抱いた本作の印象です.

 いつも明るく笑う菊子.お人好しの幸太.海より広い心を持つ梅ちゃん.本作に登場するキャラクターは例外なくいい人ばかりです.日常の小さなエピソードから,彼らの優しさが溢れ出ているように感じます.そして私が一番好きになったキャラが,ふみちゃんです.

 ふみちゃんは常に無表情で,(菊子に対して以外は)敬語を話す礼儀正しい女の子.しかし彼女は他人に対して心を閉ざしており,いつもひとりぼっちでした.そんな彼女も,菊子や幸太,そして梅ちゃんと過ごすことにより少しずつ変わっていきます.そして以前の彼女なら考えられなかった行動に出るのです.彼女に起こった変化はとても丁寧に描かれており,本作の大きな見どころとなっています.ネタ担当のぐり先生は,「ふみはもっと孤高の少女の予定だったが,心を開くようになったのは嬉しい誤算」と述べています.

 この作品は連載開始時点で最終回までのストーリーが決まっていたそうです.つまり,最初から3巻で終わらせるつもりだったのでしょう.1巻完結の作品ならそういうこともあるでしょうが,3巻分のストーリーを予定通り消化したというのはすごいことだと思います.連載期間にして4年以上ですからね・・・!

 さて,本作の良くなかった点についても触れておきます.本作は,幸太が菊子たちと過ごした日々を回顧するという形式で進んでいきます.その中で様々な伏線が出てくるのですが,伏線を主張しすぎだなと感じました.私の好みかもしれませんが,何度も読み返すうちに「あれが伏線だったのか!」と気づくくらいの隠し方をして欲しかったです.また,ギャグの面白さという点から言うと,本作はちょっと弱いです.ふみちゃんのカレーネタは面白かったですが.そして,絵も上手いとは言えないです.作品全体としてはとても素晴らしい作品なのですが,ところどころ「惜しい」と感じる部分があります.

私が選ぶ

ザ・ベスト

2巻87ページ左

 学校で一人遊びをして過ごすふみちゃんを描いた1本.ふみちゃんの孤独と,胸に秘めた想いが上手く表現されています.孤高の人だったふみちゃんは少しずつ変わっていきますが,感情を表に出さないところは変わりません.でも,それがふみちゃんらしくて私は好きです.

この作品が

好きなら!

ソーダ屋のソーダさん。/湖西晶(ぱれっと)