黒猫の駅長さん

作者:山口悠

巻数:3巻(完結)

出版社:竹書房

掲載誌:まんがくらぶ

発売日:2014/10/14~2017/5/6

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内容

 辺りに誰も住んでいない秘境駅,西大川駅.そこに1匹の黒猫が住み着いていました.黒猫はいつしか化け猫となり,西大川駅の「駅長」としてずっと駅を守ってきたのです.

 そんな西大川に新しい住人が引っ越してきました.清楚な女子高生,佐々木美琴.彼女は不思議な力を持っていて,黒猫の駅長さんと会話をすることができたのです.高校に通うために西大川駅を利用する美琴は,毎日駅長さんとおしゃべりをして穏やかな時間を楽しむようになります.

 いつも優しい微笑みをたたえる美琴ですが,彼女は心に暗い影を抱えていました.そして時に激しく揺れる美琴を心配し,彼女のそばでそっと支える駅長さん... 厳しくも美しい風景を描いた,ちょっぴりファンタジックな作品です.

雑感

*以降ネタバレ注意

 「これまでにないような4コマ作品だな」と,他の作品とは違う雰囲気を感じて読み始めました.そして1巻の終盤,この物話の核となる事実が明かされるところで私は興奮してしまいました.本作で1番の魅力を感じた部分なので,ネタバレしちゃいます.

 美琴の母親は数年前の震災で津波に飲み込まれ,行方不明のままであることが明かされます.美琴は母親がどこかで生きていると希望を持ち続けていたのですが,美琴の父親はついに諦めてしまい,さらに別の女性と再婚すると言い出したのです.美琴は現実を受け入れることができず,父親と再婚相手の女性に反抗してしまいます...

 ファミリー4コマ誌で津波の被害を取り上げることは,おそらくタブーなのではないかと思います.初めて読んだ時,私は「まさか」と思い,ページをめくる手が止まりました.あえて震災を題材に取り入れた作者の意気を評価したいです.

 正直に言うと,本作の作画については未熟さを感じる部分があります.しかしストーリーや作品全体から放たれる雰囲気は素晴らしいです.こんなふうに言うと語弊があるかもしれませんが,本作は「雰囲気を楽しむ作品」だと思います.

 鉄道をテーマにした4コマは本作の他にもいくつかありますが,本作の場合鉄道ネタは控えめです.しかし鉄道車両の描写は非常に緻密で愛情を感じるので,作者はなかなかの鉄道ファンとお見受けします.

小ネタ1

 本作の舞台となっているJR野山線とは,現在廃線となっているJR九州の山野線がモデルになっています.西大川駅は架空の駅ですが,その他の駅は実際に存在したものです.駅の表記では西大川駅は鹿児島県伊佐市に位置していることになっていますが,地図や路線図を調べると西大川駅は熊本県水俣市に位置するようです.(私は鉄道関係の仕事をしているため,会社の資料で確認してみたり)

小ネタ2

 西大川駅の構造は,肥薩線の嘉例川駅をモデルにしているそうです.

私が選ぶ

ザ・ベスト

 1巻97ページ左

美琴が今まで表に出さなかった気持ちを露わにするシーン.このあたりで本作の魅力に引きずり込まれました.